松任谷由美の名曲のひとつ、『Destiny』。
♪どうしてなの 今日に限って 安いサンダルを履いてた
この歌詞があまりにも印象的で、私はどこへ行く時も、たとえ家から一歩も出ない日でも、自分なりのおしゃれをするようになった。
粧すというより、きちんとしておくという感覚。
「今日に限って」をなくしたい。
そんな気持ちなのかもしれない。
そんな私にも、ファッションにまつわる苦い、いや、今となっては笑うしかない思い出がある。
学生の頃から洋服が好きだった私は、ランジェリーにもそれなりにこだわっていた。
洋服のラインが綺麗に見えるように。
締め付けで肌を傷めないように。
そんな話を祖母にしたことがあった。
すると祖母は、
「肌にはシルクよ!!」
と、とてもとても大きなシルクのパンツをプレゼントしてくれた。
大きい。
とにかく大きい。
父でも履けるんじゃないかと思うくらい大きい。
ベージュのデカパンである。
確かに肌には良さそうだけれど……これを、うら若き乙女に履けと!?
祖母の愛情はありがたかったけれど、そのパンツは引き出しの奥へしまわれたままだった。
ある春の日の朝。
私はとても急いでいた。
当時流行していたホワイトのスキニーパンツを履こうとしたら、レースのショーツのラインがお尻にくっきり出てしまう。
今の私なら、スキニーパンツを替える。
でも当時の私は、どうしてもそのスキニーが履きたかった。
引き出しをゴソゴソ探していると……
いた。
祖母のデカパン。
一瞬ためらった。
でも、服を綺麗に着るためである。
履いてみると、あら不思議。
驚くほど後ろ姿がすっきりした。
全身をモノトーンでまとめ、お気に入りのスキニーパンツを履いて、その日はデカパンで出かけた。
悲劇は、その夜に起きた。
家の近くの交差点で、青信号を渡っている時、
よく確認せず左折してきた高齢者の運転する車にはねられたのである。
数メートル吹き飛ばされたけれど、幸い打撲程度で済み、そのまま近くの大きな病院へ搬送された。
検査を終え、診察室へ呼ばれる。
そこにいたのは、今まで見たどんな人よりもイケメンな若いお医者さんだった。
イケメンは予想通りのイケボで、
「骨に異常はありません。ただ、痛みはこれから出るかもしれませんからね。」
と優しく説明してくれたあと、
「一応、関節の動きを確認しますので、
ズボンを脱いで、そこへ横になってください。」
……ズボンを脱ぐ。
脱ぐしかない。
♪どうしてなの 今日に限って 祖母のデカパンを履いてた
あの日以来、祖母がくれた五枚組のシルクのデカパンは、すべて処分した。
祖母には申し訳ないけれど、あの出来事以来、「なんとなく取っておく」ということがほとんどなくなった。
思い出だから。
高かったから。
もらったものだから。
そんな理由で残しておくよりも、朝、引き出しを開けた時に「これが好き」と思えるものだけが並んでいる方が、ずっと気持ちがいい。
あのデカパンは、私の人生でいちばん高価な断捨離の授業だった。
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